真っ白な壁、あるいは片付いたデスク。 そこに何か一つだけ装飾を許されるとしたら、私は迷わず「美しい装丁の本」を選びます。
デジタルデバイスの画面は電源を切ればただの黒い板ですが、本はそこに存在する限り、常に一定の世界観を放ち続けます。ふと視線を上げたとき、洗練されたタイポグラフィや写真が目に入るだけで、停滞していた思考に新しい風が吹き込むのを感じるはずです。
私が自分のワークスペースやリビングに意図的に配置している、視覚のアンカーとなる書籍とツールをご紹介します。
Dieter Rams: As Little Design as Possible (Phaidon)
「引き算の美学」を常に視界に置く
もしあなたが、機能美やミニマリズムを愛するなら、この本は必携です。 Appleのデザインにも多大な影響を与えたと言われるドイツの工業デザイナー、ディーター・ラムスの作品集。
「Less, but better(より少なく、しかしより良く)」。 この本自体が、彼の哲学を体現するような極めてシンプルで美しい装丁を持っています。真っ白な表紙に配置された、計算し尽くされたオレンジ色のタイポグラフィ。
私はこの本を、仕事に行き詰まった時にすぐ目に入る場所に置いています。 複雑になりすぎた企画書や、ごちゃついた思考を前にした時、この本の佇まいが「それは本当に必要な機能か?」と静かに問いかけてくれるのです。
Tom Ford (Rizzoli)
空間を圧倒的な「黒」で引き締める
インテリアのアクセントとして、世界中のモダンな空間で採用されているアイコニックな一冊です。 ファッションデザイナー、トム・フォードの軌跡をまとめたこの巨大なアートブックは、とにかくその「黒の質量」が素晴らしい。
厚さ約5センチ、重量は数キロにも及びます。 マットブラックの布張りの表紙に、白抜きの太字で「TOM FORD」とだけ記されたミニマル極まりないデザイン。 木目のテーブルや、無機質なスチール棚の上にこれを無造作に平積みするだけで、空間全体が一気にラグジュアリーで引き締まった印象に変わります。
ページをめくれば、刺激的で官能的なビジュアルの連続。 日常のルーティンから強制的に脳を引き剥がし、非日常の美意識へダイブするためのスイッチとして機能してくれます。
The Monocle Guide to Better Living (Gestalten)
「豊かな暮らし」の羅針盤を飾る
イギリスのグローバル情報誌『MONOCLE(モノクル)』が編集した、より良いライフスタイルを探求するためのガイドブックです。
この本の魅力は、リネンクロス張りのマスタードイエローの背表紙にあります。 モノトーンになりがちな大人の部屋において、この落ち着いたイエローは、嫌味のない絶妙な差し色になります。 パラパラと開けば、世界中の美しい建築、ビジネス、カルチャーが高品質な写真と共に綴られています。
「自分はどんな暮らしがしたいのか」。 休日の朝、コーヒーを飲みながらこの本の重みを膝に感じる時間は、インプットというよりも、自分自身の価値観のチューニング作業です。インテリアとして飾りつつ、何度も手に取りたくなる人生の教科書のような一冊です。
ギブソンホルダーズ (Gibson Holders) ワイヤースタンド
本を「アート」に変える縁の下の力持ち
美しい表紙の本を手に入れても、本棚に背表紙だけを見せてしまってはインテリアとしての効果は半減します。 本を「面」で見せるために欠かせないのが、このギブソンホルダーズのディスプレイスタンドです。
アメリカの書店や美術館で業務用として使われているもので、装飾を一切排除した無骨なワイヤー構造が特徴。 主役である本の存在感を全く邪魔せず、絶妙な角度で表紙を立ち上げてくれます。
お気に入りのページを開いたまま飾るのも良いでしょう。 数百円という投資で、手持ちのアートブックが「壁に掛ける絵画」と同等の視覚的インパクトを持つようになります。
表紙は、あなたを映す鏡
「どんな本を部屋に飾るか」は、「自分が何を大切にして生きているか」を空間に宣言するようなものです。
背伸びをして難解な本を並べる必要はありません。 ただ純粋に、見ていて心が落ち着く写真集や、タイポグラフィが美しい洋書を、お気に入りの場所に一冊だけ立て掛けてみてください。
BASE KENTが目指すのは、五感のすべてが心地よい方向に調律された空間。 デジタルな文字情報の波から少しだけ離れて、美しい装丁が放つ「静かなインスピレーション」に身を委ねてみませんか。

